「庭猫」のやってくる自然体の暮らし-『庭猫』フォトグラファー安彦幸枝さん<後篇>
別荘をもつねこ
―『庭猫』は、いつごろから撮り始めたものなんですか?
安彦さん:3,4年前…4,5年前です。
最初は写メで撮ってたんですけど、『庭猫』の編集者に、一冊にできる面白さがあるので撮りためてみて、と言われて、意識して撮るようになりました。
―アフくんが現れてすぐに写メっていたんですか?
そうです、庭猫って大抵、2,3軒の家をはしごするそうです。
―そうなんですね。「別荘」みたいな(笑)。
安彦さん:それぞれの家で、いろんな名前を持っているらしいです。
アフの場合はうちが本宅だったとは思いますが。
―宮崎駿監督の『耳をすませば』みたいですね。
「ムーン」っていう、ちょっと太ったねこが転々と放浪するんですけど、その行く先々で違う名前で呼ばれているっていうのが描かれてたんです。
ありましたね、そんなシーン。
―ねこがあんなにも自由にいろんなところを巡れるって、日本の平和の象徴だなーと、個人的に一番すきなシーンなんです。
安彦さん:いい映画ですよね。たしかモデルの街がありますよね。
―え、そうなんですか!
(後日調べたところ、聖蹟桜ヶ丘だそうです)
―山本氏:そうそう、たしかあの坂もあるんですよね。
(「いろは坂」というそうです)
―もしかしたらムーンが実際にその辺りをうろうろしてるかもしれないと思うとおもしろいですね。
安彦さん:(管理人が開いていた写真集を指し)その小屋で二匹は寝てました。
安彦さん:冬には庭に常駐するようになり、両親が小屋を作り、中に毛布やペットボトルにお湯を入れた湯たんぽも入れてました。
―快適ですね!
安彦さん:両親は、二匹をとても大切にしていました。
―それはもう本宅ですね、間違いなく。
外猫と家猫の境界線
―写真集の中にアフくんが鳥を狩ってきた場面が載っていて、当たり前のことなんですけど、「ねこって狩りをするんだな」と、普段見えない野性的な部分が見えたというか、なんだか不思議な印象でした。安彦さん:たぶん本能で飛びついているのだと思います。
自宅には18歳くらいのおばあちゃんねこがいるのですが、そのねこも以前若いころにはネズミやスズメや、モグラも捕ってきたことがありました。
でも狩りをして終わりで、最後まで食べませんでした。
―捕って自慢したいらしいですね。
そういうのを聞いたことがあったので、「食べるために捕る」というのが、それが本来は自然のはずなんですけど、なんだか不思議な感覚の湧くお写真です。
安彦さん:外で暮らしていると、生きるために必要なんでしょうね。
―家で飼うことはなかったんですね。
安彦さん:ねこは自分のテリトリーをとても大事にします。
すでに室内飼いのねこが住んでいて、家の中は家猫のテリトリーなので、ちょっとでもヨソ猫が入ってくると、テリトリーが荒らされたと家猫は怒ります。
家猫がもし庭に出たらきっと庭猫がテリトリーの彼ら(アフくん・サブくん)も怒ったと思います。
―なるほど、たしかに今回の写真集の中にもその関係性を示すような、一瞬を切り取ったお写真ありますもんね。
安彦さん:普段は穏やかな顔をしているのに、窓の向こうから「にゃー」と聞こえただけで耳が逆立ったりと反応します。
「アフ」と「サブ」名前の由来
―「アフ」と「サブ」というお名前の由来はなんですか?安彦さん:アフは、「アフラック」という保険会社の…。
―意外なワードが出ましたね!
たしかにでもCMにねこが出ていたときありましたね。
安彦さん:父が名付けました。
「直立するねこ」というだけで、顔は似てないんですけど(笑)。
安彦さん:サブは庭に来はじめたころ、人馴れせずに軒下に潜って隠れてしまったらしく、
潜水艦(サブマリン)から名づけたそうです。
後から来たため「サブ」的立ち位置という意味合いもあるようです。
―なるほど、日本名でいうところの「二郎」みたいなものですね。
野生における「白」という色
―つくづく、お庭に偶然ねこが来るという環境って素敵です。安彦さん:二匹とも白いので、庭の緑にふたつの白が映えて、なおさらかわいいのです。
―たしかに映えますね。
安彦さん:でも自然界では「白」は弱いそうです。
例えば夜に喧嘩して逃げても暗闇の中で目立ってしまうし。
黒猫の方が強いようです。
―ホワイトライオンもホワイトタイガーも弱いっていいますもんね。
安彦さん:ねこもそうみたいです。
白って発色が良いので、庭では目立ちます。
ふと庭に気配を感じて窓の外を見たときに、二匹がじーっとこちらを見ていたりすると、たまらなくかわいい。
―山本氏:うちにも来てほしいけど、うちは今外が雪だらけだから(北海道在住)、白より黒の方が目立ちそうですね。
実際、白猫がいても気づかないからか黒猫の方が多い気が…。
安彦さん:なるほど!北海道の場合は、黒い方が庭猫として生きやすいかもしれませんね。
―「所変われば」って感じですね。
安彦さんの「29cuteポイント」
―サイト名が「29cutecat(にくきゅうとキャット)」という「肉球」と「cute cat」を合わせた造語なんですけど、この「肉球」というのは肉球そのものというより、その人が一番「cute!」と思うねこの部分のことを指しているんですが、安彦さんにとってそんな「29cuteポイント」はどこですか?安彦さん:お日さまを浴びて、安心しきって寝ている姿です。
家猫の場合は家の中で、ノラ猫の場合も安全な屋根の上などで日向ぼっこしているときなど、恐れも警戒心も忘れて、だらーっと無防備に寝ている姿に癒されます。
―たしかに。見てるだけでこっちもねむくなっちゃいますよね。
安彦さん:はい、安らぎを感じます。
「ねこになりたい」という方もいますが、私はそれよりも風景の中にねこがいると、一気に優しくなるというか、そういうのを見ることに喜びを感じます。
―ちなみにアフくんとサブくんの寝顔を見る機会は結構ありましたか?
安彦さん:あります、冬は団子のようにくっついて寝てました。
―警戒心の強いねこが家の敷地内で寝るというのは、やっぱり家猫ではないにしても、ノラ猫でもない、また別の、不思議な関係ですね。
跳ばなくなったサブくん
安彦さん:ご飯どきになると、「そろそろもらえる時間だな」と察して、庭にいるんですよ。
だからこっちも「そろそろご飯だな」と思ってふと見ると、もうそこにいて、じっと待ってる(笑)。
―かわいいですね!
安彦さん:そして、ご飯の準備をしているのが見えると、ソワソワして勢いあまって跳んでしまうのです。
―なるほど、じゃあおなじみの網戸に張りつくポーズは「待ちきれないぞ!」っていう表れなんですね。
安彦さん:以前はアフにつられてサブも一緒に跳んでいましたが、もうアフがいないので跳びません。
―そうなんですね。じゃあ本当に兄貴分のことを真似していたんですね。
安彦さん:それと、サブは体重が増えて重くなったので跳べない、というのもあるかもしれません(笑)。
それもかわいい理由です。
もう無理に跳ぶことはありません。
一生分跳んで、たくさん笑わせてくれましたから。
―今のサブくんも見てみたいです。
安彦さん:ドコモのiPhoneで撮った写真を1冊の本にしてくれる、というサービスがあるそうで、サンプルとして『庭猫サブの日記』というミニ写真集を店頭に置いていただいています。
―え!知らなかったです!
安彦さん:20ページくらいの冊子です。
よろしければご覧になってくださいね。
(※2018.2.18時点、店舗に直接問い合わせたところ、もう既に在庫が終了してしまっている店舗がほとんどではあるものの、もしかしたら店舗によっては残っているところもあるかもしれない、とのことでした)
今回お話を伺った安彦幸枝さんは、装丁家のお父様のアシスタントをしていたご経験もあり書物に関する知識も豊富で、さまざまな写真集やアート集を例えに引き出してくださり、一緒に時間を過ごしていて知的好奇心が刺激されたのですが、一方で、インタビューが長引いたこともあり、途中で、夜訪れる予定だという焼き鳥屋さんに席の予約をしに離席されるという自然体なところも魅力の方でした。
安彦幸枝さんについて写真家。
お父様のデザイン事務所でアシスタントを務めたのち、写真家・泊昭雄氏に師事され、独立。
ご実家に訪れたねこを撮影された写真集『庭猫』が人気で、今回取材させていただきましたが、旅先などで撮影された作品も多く発表されており、さまざまな表情のお写真を見ることができます。
価格:1,512円 |
取材・文:29cutecat管理人(浦田みなみ)
取材写真:山本諒氏(Facebook・Instagram)
サムネイル、記事内画像:安彦幸枝さん
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